母の料理

母のこと

私は母が作る白和えが好きだ

大きなすり鉢を子供の私に握らせ、豆腐と小さく刻んだ野菜を擦っていた記憶がある

子供の頃、インスタント物は殆ど食べたことがなかった

毎朝、煮干しで出汁をとりお味噌汁を作っていた

誰よりも早く起床し、朝ごはんの支度に洗濯、掃除と狛鼠のように動く

父に祖父、4人の子供たちの世話で大変であったろう

父は口数の少ない人だったが、母の料理をよく褒めていた

それが、母にとって最高の喜びだったのだろう

「小料理屋をしたら繁盛する」と誉られたと

父が亡くなっても自慢していた

確かに自然素材の旨みを活かした料理はどこか懐かしい味がした

しかし、不思議なことに私は母から料理を習った事がない

あれだけ得意とした料理なのだから普通は娘に伝授したいと思うはずなのに

母と台所に一緒に立ったことがないのだ

もちろん、母が忙しすぎて娘に料理を教える時間がなかったのかもしれない

私の子育てを振り返ってみても、娘に料理を教えたかな?と疑問に思う

その話題を娘とした時に

おばあちゃんはお料理が自慢で

それを誰かに取られたくなかったんだよ、と言った

娘の私でさえも恋敵で、父からの称賛を奪われたくなかったのだと

お料理上手と言われるのは母の特権でそれが、母のステイタスなのだと

いつだっただろうか

私が料理本を見ながら鯵の南蛮漬けを作った時

酢の物が苦手な父が「うまい」「うまい」と褒めてくれた

自分が作ったものを誰かが美味しいと食べてくれる

このなんとも言えない幸福感を味わっていた時に

母は、魚の下処理が不十分だと言った

魚の堕ろし方を説明しようとした時に

「これでいい!」

と父が遮った

母のなんとも言えない表情を覚えている

この一件以来、何となく台所に立つことがなくなった

台所は母の聖地で、私が踏み込んではいけない場所なのだと体感した

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