選択肢がない!

母のこと

母と一緒に暮らしたのは、私が中学卒業するまで

卒業と同時に元家を出て働きながら学校へ通った

だから私の記憶では中学までの母の姿しかない

私と7歳ちがいの長兄を跡取りとして義姉と孫たちを可愛がった

幼い頃より 何となく母との距離を感じていた私は

早く、この家を出て独り立ちをしたかった

住み込みで働き、学校に通うと言う過酷な2年間

何度も挫けそうになり、家に帰りたいと泣いた夜もあったが

母の存在がそれを思い止まらせた

いつだったか、友人を家に招いた時

薄っすらと化粧をしていた私たちを見て

みっともない! そんな格好で帰って来るな、とひどく叱責された

友人は、驚き化粧を落とす私に「なんで?」と不思議がった

何がいけないの? どうして言いなりになるの? と

その時、初めて母に口答えひとつできない自分に気づいてしまった

母は悪い人ではない

しかし、子供は自分の所有物だと思う人である

自分が産んで育てたのだから、自分の思うようにしたい人だ

そういう母に育てられ、いつしか自分の気持ちを飲み込むようになった

母にとっての正解を意識して会話をしているのだ

母の元を離れて、母の人間像に気付くことになる

跡取りとして育てられた兄は家族と家を捨て蒸発

父は事故で他界し

次の跡取りの次男兄も借金を作り家を出ていく

障害のある三男兄と母だけが取り残され

選択肢がなく一緒に暮らすことにしたが

いつも、これで良かったのか自分に問いかける

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